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広島地方裁判所 昭和48年(ワ)44号 判決

原告

姫野勤二

右訴訟代理人

間所了

被告

丹京寛

右訴訟代理人

人見利夫

主文

一  被告は原告に対し金一〇八、五八〇円及びこれに対する昭和四八年一月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告は原告に対し金一〇八万八、五八〇円及びこれに対する昭和四八年一月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二 当事者の主張

一、請求原因

1  原告は昭和四六年三月一四日被告との間に別紙目録記載の土地(以下本件土地という)につき代金一〇五万円で売買契約(以下本件売買契約という)を締結してこれを買受け被告に対し同月一五日手附金六〇万円、同月三一日残代金四五万円及び水道施設負担金三万五、〇〇〇円を支払つた。原告はそのほか、本件土地の所有権移転登記手続をするために三、五八〇円を出費した。

2(一)  原告は本件売買契約の締結に先立ち

被告が原告を現地案内した際、床画積一五坪以上の住宅の建築に必要な敷地を買いたい意向を述べたところ、被告は本件土地三〇坪(約九九平方メートル)の範囲を指示した。それによれば、北側斜面を考慮に入れても、原告の希望する一五坪以上の住宅の建築が可能な広さであつたが、ただ北側に設置された擁壁がかなり高く万一の場合崩壊の危険性がありはしないかと質したところ、被告は本件土地の宅地造成工事は法的基準に従つて施工されたものでその安全性を保証したので、本件売買契約を締結するに至つた。

(二)  しかるに後日原告が被告から引渡しを受けた土地は、南側境界線が北方寄りで斜面が大半を占め、一〇坪の住宅さえ建築不可能のものであつた。これは床面積一五坪以上の住宅の建築可能面積の土地売買という前記買受条件に違反するもので、本件売買契約は無効である。

3  仮に右無効の主張が認められないとしても、本件土地には隠れたる造成工事上の瑕疵(擁壁の強度不足)があり、このために昭和四七年七月頃本件土地北側擁壁が崩壊し、これに伴ない本件土地全部が崩れて宅地として利用不可能となり買受目的を達し得なくなつた。

そこで原告は被告に対し本件訴状により本件売買契約解除の意思表示をなし、昭和四八年一月三〇日被告に到達した。

4  よつて、原告は被告に対し売買契約の無効ないし解除による返還請求権に基づき原告が被告に支払つた金一〇八万五、〇〇〇円及び損害賠償として所有権移転登記手続に要した費用相当額三五八〇円、合計一〇八万八五八〇円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四八年一月三一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。〈以下略〉

理由

一原告が昭和四六年三月一四日被告との間に本件売買契約を締結し、被告に対し手附金六〇万円及び残代金四五万円を支払つたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、原告は本件売買契約に伴い、被告に対し水道施設負担金三万五、〇〇〇円を支払つたほか、本件土地の所有権移転登記手続のために三、五八〇円を出費したことが認められる。

二被告は本件売買契約を販売受託者として締結したに過ぎず売主ではないと主張するのでこの点につき判断するに、〈証拠〉を総合すると、被告は丹京商事という商号で宅地建物取引業を営んでいたところ、昭和四六年三月一日、訴外姜からその所有にかかる本件土地の存する造成宅地につき分譲委託を受けた訴外托伸物産から、被告の名で売ることの許諾を得分譲を委託されたこと、その分譲に際して、提携直売方式による取引などと自己が売主であることを示した「ちらし広告」を頒布し、原告との本件売買契約締結に当つては、売買代金請求権、危険負担、債務不履行による損害賠償の予定などの権利義務が自己に帰属する旨約定し、自己を売主として表示したとこと、右売買代金も被告が受領し、その名で領収証を発行したこと、登記手続案内通知も被告の名で行なわれていること、以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、被告は自己のためにする意思で本件売買を締結したもので、訴外姜ないし托伸物産に売買の効果を帰属させる意思(代理意思)はなかつたものと認められる。〈証拠〉によれば、被告は訴外姜を土地所有者と記載し「販売受託者丹京商事」の記載がある物件説明書等(乙度六号証の一ないし三)を原告に交付したことが認められるが、右事実は前認定の妨げとはならない。

よつて被告は売主としての責任を免れない。

三〈証拠〉を総合すると、原告は昭和四六年三月一四日本件売買契約締結に先立ち被告の現地案内を受けて下検分したがその際、盛土の斜面を平担にすれば建坪一五坪位の住宅の建築が可能と考え、第三一区画(五四、五三坪)のうち、北側擁壁に平行に南側境界を定めて右斜面を含む約三〇坪と思われる範囲を買い受けることにしたが後日引渡しを受けた範囲は、南側境界の東方が本件土地より北寄りであつてその東部では斜面が大半を占め、その結果原告の予定していた建坪約一五坪の住宅の建築は困難であつたことが認められる。

しかしながら証拠に照らして原告主張のごとき本件売買契約が右約一五坪の住宅建築が可能であることを条件(効力要件)としたものであると認めるに足りる資料はない。

従つて原告の条件を理由とする無効の主張は失当である。

四〈証拠〉によれば、本件土地は地下水の近い緩い丘陵地に真砂土を盛土した造成地で(盛土高は擁壁中心部において約七メートル)、擁壁を二段に分け、上段高さ(垂直距離。以下同じ)三、五メートル、勾配(水平距離に対する垂直距離の割合。以下同じ)二、五下段高さ三、六メートル、勾配二、〇、控え長さ四〇センチメートルのブロック練積み造りで、上下段の間に幅四五センチメートルの小段を設け、擁壁上部の盛土斜面は高さ約一、三メートル、勾配約〇、五六とし、その上部をほぼ水平にして造成したものであること、右擁壁は上段、下段とも盛土量高に比して断面が相対的に不足し、背面土の土圧に対する許容支持力を超えていたこと、そのため、昭和四七年七月頃の集中豪雨の際雨水、地下水の浸透により増加した背面土の土圧に耐え得ず、崩壊し、本件土地も崩壊して宅地として利用することが不可能となつたこと、本件土地を原状に復するには少なくとも六〇万円位を要し、かつ、そのためには擁壁の勾配を緩やかにする必要があり本件土地の利用可能面積が著るしく減少すること、以上の事実が認められ、ほかにこれに反する証拠はない。

右認定事実によれば本件土地の擁壁には構造上の欠陥があつたものということができ右の欠陥は契約締結時において原告に期待される取引上必要な普通の注意を働らかせても発見できなかつたものと認めるのが相当であるから民法五七〇条にいう「隠れた瑕疵」にあたり、これによつて被告は住宅建築という本件土地買受の目的を達することができなかつたものというべきである。

五原告が昭和四八年一月三〇日被告に送達された本訴状をもつて、本件売買契約を解除する旨の意思表示をしたことは、記録上明らかである。

してみると、本件売買契約は右解除により消滅し、被告はその原状回復として原告から受領した金一〇八万五、〇〇〇円を返還する義務があるほか、損害賠償として三、五八〇円を支払う義務があるというべきである。

六よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行宣言につき同法第一九六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(田辺博介)

物件目録〈略〉

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